2007年11月21日水曜日

小松秀樹が語る「医療に司法を持ち込むことのリスク」

小松秀樹が語る「医療に司法を持ち込むことのリスク」
虎の門病院泌尿器科部長 小松 秀樹氏
2007.10.25 日経メディカルオンラインより

「医療崩壊」で現代の医療の問題点を鋭く指摘した小松氏が、10月18日の日本消化器関連学会週間の特別講演の中で厚労省が設置しようとしている「医療事故調査委員会」設置について警鐘を鳴らされました。
その内容が.10月25日の日経メディカルオンラインに掲載されました。
以下に抜粋を示します。内容は医療の問題から日本社会の構造的問題に及んでおり、興味深い内容と思われます。
このまま医療が崩壊するのはつらいところですが、組織だった反対活動は、かえって格好のマスコミネタとなって逆効果で、個人個人のささやかな抵抗が積み重なった方が効果が大きいという小松氏のコメントが印象に残りました。





厚生労働省が10月17日、「医療事故調査委員会」設置に向けた試案を公表した。



厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が2007年4月に発足したが、今回の試案は検討会の議論とは別の独自の第二次試案である。



案の定、「行政処分、民事紛争及び刑事手続における判断が適切に行えるようこれらにおいて委員会の調査報告書を活用できることとする」と明記されていた。





小松氏はこの試案の問題点および背景について詳細に述べている。以下はその要約である。





・検討委員会と座長の実態



 私は第2回の会合で意見を述べる機会を得たが、各委員がキーワードの「医療関連死」という言葉さえ異なるニュアンスで使っているような状態で、議論が全くかみ合っていなかった。驚いたのは、議論をかみ合わせようとする努力なしに、猛スピードで議論が進められたことだ。議論をしたという実績を残そうとしているとの強い印象を受けた。



 私は検討会の座長である刑法学者の前田雅英氏と07年8月14日の読売新聞朝刊で誌上討論を行った。前田氏の主張には「法的責任追及に活用」、私の主張には「紛争解決で『医療』守る」の見出しが付けられた。この議論から、厚労省の狙いが、法的責任追及に向いていることが強く懸念された。





・事故調査の本質;我が国と海外の対応の差について



 国際民間航空条約(ICAO条約)の第13付属書に、事故調査についての取り決めが記載されている。付属書は「調査の唯一の目的は、将来の事故又は重大なインシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない」とする。また「罪や責任を課するためのいかなる司法上又は行政上の手続も、本付属書の規定に基づく調査とは分離されるべきである」と明記している。



 故意や重過失に対する刑事処分は容認しているが、関与者の過失については、人間工学的な背景分析も含めて当該事案の分析を十分に行い、被害結果の重大性のみで、短絡的に過失責任が問われることがないよう配慮することを求めている。



 日本では警察が法的責任追及のために事故調査を行い、検察は航空・鉄道事故調査委員会の報告書を刑事裁判の証拠として使用してきた。日本の司法が国際民間航空条約(ICAO条約)の基本思想を受け入れていないことは間違いない。



さらに小松氏は以下の2点の問題についても言及している。
①非門家が事故について調査し、処分を決めない危うさ



法律家は医療がどのようなものかほとんど知らない。検察官と裁判官の一部が医療現場を見学していることを知っているが、法律学者、弁護士(病院側の弁護士も)が医療現場を自分の目で見て認識を広めているという例を聞いたことがない。



②マスメディアを始めとする日本の問題



厚労省の行政官は政治とメディアから、正当なもの不当なものを問わず、激しい攻撃を受け続けている。このため、攻撃をかわすこと、すなわち、自己責任の回避が行動の基本原理の一つにならざるを得ず、しばしば大衆メディア道徳とでもいうべき現実無視の論理に同調して、同僚を切り、あるいは、現場に無理な要求をしてきた。
 今の日本社会は大きな欠陥を持っている。何か不都合が生じたとき、「悪い奴を探し出して罰しろ」と主張する「被害者感情」が、制御なしに独り歩きをしている。感情をそのまま社会的コミュニケーションに持ち込むと、当然ながらコミュニケーションそのものが成立しなくなる。



 司法、政治、メディアは物事がうまくいかないとき、規範や制裁を振りかざして、相手を変えようとする。こういった態度とは対照的に、医療、工学、航空運輸など専門家の世界では、うまくいかないことがあると、研究や試行錯誤を繰り返して、自らの知識・技術を進歩させようとする。あるいは、規範そのものを変更しようとする。



 こういった背景から小松氏は「厚労省が医師を処分することには多くの問題がある」とし、その理由を3つ挙げている。



 第一に、厚労省の行政官は日本国憲法の下では、政治の支配を受ける。政治はメディアの影響を受ける。日本のメディアの感情論が処分に影響を与えるようになると医療の安定供給は困難になる。第二に、日本やドイツでは政治の命令で医師が国家犯罪に加担した歴史がある。第三に、行政官は現行法に反対できない。



最後に小松氏は解決法として以下の提案を行っている



1.事故調査と処分制度と完全に切り離す。未来の医療の質を高めるためのものなので、処分には教育的意味が大きくなる。



2.処分の端緒は、事故ではなく、医師の不適切な行動とする。被害がなくても、同僚の目から見て明らかに不適切な行動を取った医師は、処分の対象にする。



3.世界的に、医師の行動の制御は、政府ではなく、医師の知識と良心に委ねるべきであるとされおり、こうした制度は国が行うのではなく、医師というプロフェッションの団体として自律的に行う必要がある。











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