2007年11月25日日曜日

小松秀樹が語る「日本医師会の大罪」



 厚生労働省が10月17日に公表した「医療事故調査委員会」に関する第二次試案について、「医療崩壊」の著者、小松秀樹氏が再び警鐘を鳴らされています。今回は、11月1日に日本医師会がこの案に賛成したことを問題とし、今後危惧される状況を詳細に解説し、日本の医療を守るために、「勤務医医師会」の創設をすべての勤務医に呼びかけています。以下に要約を示します。



小松秀樹が語る「日本医師会の大罪」
虎の門病院泌尿器科部長 小松秀樹氏
2007. 11. 19 日経メディカルオンライン



 2007年10月17日、厚生労働省は診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する第二次試案を発表した。その骨子は以下のようなものである。



1)委員会(厚労省に所属する八条委員会)は医療従事者、法律関係者、遺族の立場を代表する者により構成される。
2)診療関連死の届出を義務化して、怠った場合には何らかのペナルティを科す」。
3)行政処分、民事紛争及び刑事手続における判断が適切に行われるよう、調査報告書を活用できることとする。
4)行政処分は、委員会の調査報告書を活用し、医道審議会等の既存の仕組みに基づいて行う。



 日本の刑法学はマルキシズムと同様、ドイツ観念論の系譜にある。理念が走り始めるとブレーキがかかりにくい。ここまでの統制が、医療に対して求められなければならないとすれば、他の社会システム、例えば、裁判所、検察、行政、政党、株式会社、市民団体などにも、相応の水準の統制が求められることになる。



 そもそも我が国で人の死がここまで問題になった原因として小松氏は「わが国の死亡時医学検索制度の貧弱さ」を挙げ、そのことについて現状認識すらないことを問題視している。そして「このような異様な制度は、独裁国家以外には存在しない。独裁国家ではジャーナリズムが圧殺されたばかりでなく、医療の進歩も止まった。」 「システムの自律性が保たなければそのシステムが破壊され、機能しなくなる。「システムの作動の閉鎖性」(ニクラス・ルーマン)は、社会システム理論の事実認識であり、価値判断とは無関係にある。機能分化した個々のシステムの中枢に、外部が入り込んで支配するようになると、もはやシステムとして成立しない。」と警鐘を鳴らしている。



 このような過剰反応を示す厚労省であるが、小松氏は厚労省について以下のように分析している。「厚労省は、しばしば、攻撃側の論理を受け入れて、ときに身内を切り、現場に無理な要求をしてきた。現在の厚労省に、社会全体の利益を配慮したブレのない判断を求めることは無理であり、強大な権限を集中させることは、どう考えても危険である。」



日本医師会、病院団体、学会が第二次試案に賛成した驚愕



 2007年11月1日、ほとんど報道されなかったが、日本の医療の歴史を大きく変えかねないような重要な会議があった。自民党が、医療関係者(診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業事務局、日本医師会、日本病院団体協議会)を呼んで、厚労省の第二次試案についてヒアリングを行った。私はめったなことでは驚かないが、この会議の第一報を聞いたときには、びっくりした。全員、第二次試案に賛成したのである。



この驚愕の決定に対し、小松氏は日本医師会を痛烈に批判する。



 日本医師会はなぜ賛成したのか。厚労省の第二次試案に賛成することが、自民党を支えることになり、診療報酬改定で自分たちが有利になるとの期待があると考えるしか、日本医師会の行動を合理的には解釈できない。



 私には、日本医師会が時代から取り残されているように思える。現場で働く開業医と議論すると、日本医師会の中枢を占める老人たちとの間に、越え難い溝があることがよく分かる。この危うい状況を本気で検証して、対策を講じないと日本医師会に将来はない。



 このままだと、医療制度の中心部に行政と司法と「被害者代表」が入り込み、医師は監視され、処罰が日常的に検討されることになる。



 第二次試案では、勤務医のみならず、開業医も厚労省のご機嫌を伺いながら、常に処分を気にしつつ診療することになろう。積極的な医療は実施しにくくなる。



 第二次試案は開業医より、勤務医にとってはるかに深刻な問題である。第二次試案は主として勤務医の問題といってよい。産科開業医等を除くと、日本の診療所開業医は高いリスクを積極的に冒すことによって生死を乗り越えるような医療にあまり関与しない。勤務医の多くは、目の前の患者のため、リスクの高い医療を放棄できない。



こういった危機的状況をふまえ小松氏は「勤務医は日本医師会を脱会し「勤務医医師会」を創設すべき」という提言を行っている。



 生命を救うためにぎりぎりまで努力する医師を苦しめ、今後数十年の医療の混迷を決定づける案に日本医師会が賛成していることが確かならば、すべての勤務医は日本医師会を脱退して、勤務医の団体を創設すべきである。
 まず実施すべきことは、勤務医医師会の創設と、患者により安全な医療を提供するための、勤務環境改善を含めた体制整備である。この中には、再教育を主体とした医師の自浄のための努力も含まれる。



 すべての勤務医と一部の開業医だけでも、なんとか工夫をして、国の力を借りずに自浄のための制度を立ち上げたい。これは国民に提供する医療の水準を向上させ、かつ、医師が誇りを持って働くことにつながると信じる。



0 件のコメント:

コメントを投稿